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波が押し寄せ、そして、あたりに闇

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波が押し寄せ、そして、あたりに闇

波が押し寄せ、そして、あたりに闇が流れ込んできた。

龍神が姿を消すと、風が戻り、滝の音が聞こえてきた。

滝が起こす風が草木を、姫の髪を、衣を、イダテンの真紅の髪をなびかせた。

 

イダテンは、横たわった姫の肩に手を回し、力強い声で、

「もう少しの辛抱だ。すぐに届けてやる」

と、声をかけた。

 

頬が火照り、胸が高鳴った。

三郎の無念を晴らすことができる。

 

姫の顔色は相変わらず悪かったが、それでも薬が効いてきたのだろう。

うなずけるほどにはなっていた。

とはいっても、常ならば必ず相手の目を見て話す姫がうつむいたままだ。

 

立ち上がろうとして姫がよろめいた。公司秘書服務| 為企業提供可靠專業意見| easyCorp公司易

あわてて支え「横になれ」と、口にする。

 

「だいじょうぶです」

と、気丈に答えるものの、イダテンの胸に顔を埋め、動くことができない。

息をするのも苦しそうだ。

それでも先ほどよりは震えもおさまり、汗も引いているように見えた。

 

「イダテン。あなたに詫びねばなりません」

姫が、血の気を失った震える唇を開いた。

「重い黄金を忍ばせ、あなたに負担をかけました。これを池に捨てますから、その音を合図に走り出してください」

 

姫が倒れた後、懐に抱いていた守袋を背負子に括りつけたのだ。

話しに聞く通り、見た目以上に重かった。

足に力が戻った今、少々の重さは気にならなかったが、姫にあまり喋らせたくなかった。

 

「わかった」

と、応え、捨ててやろうと紐の結び目に手を伸ばすと、

「わたしが……

と、姫が、ほのかに笑った。

 

軽いに越したことはないが、親族に世話になるなら黄金とやらも必要なはずだ。

無事、姫を届けた足で取りに戻ってやれば良い。

命との引換まで一日ある。

 

「衣の裾が乱れてしまいました。直しますから後ろを向いてください」

滝の音で、聴き取りにくかったが、言っていることは見当がつく。

時間は惜しいが、今のイダテンであれば取り戻せよう。

 

背を向けて姫の準備を待つ。

衣ずれの音が途絶えても、姫は、すぐに座ろうとしなかった。

 

あせる気持ちを抑える。

息遣いも聞こえる。

問題はあるまい。

 

座りやすいようにと膝を折ると、ようやく背負子に重みが加わった。

自分と姫を結んでいた縄が見あたらなかった。

池の水が押し寄せて来たときに、引きこまれてしまったのだろう。

代わりに手斧の縄をほどいて後ろに回した。

 

……疲れてしまいました……もう、話ができそうにありません……後ろを振り返らず、走り続けてくれますね?」

背後の姫が、切れ切れに声をかけてきた。

 

苦しげな様子に、これ以上、喋らすまいと、

「おれを信じろ。あっという間に届けて見せる」

と、応えた。「わたしの名は……都子(みやこ)と言います」

問うてもないのに、唐突に姫が名を明かした。

 

公家に生まれた姫は、呪を怖れて本当の名を明かさないのではなかったか。

老臣が姫の名について、ほかにも何か言っていたはずだが、すぐには思い出せなかった。    

 

姫が、途切れ途切れに吐く、白い息が風に乗ってイダテンの横を通り過ぎる。

「支度はできたか」

と、声をかける。

 

「あなたに会えてよかった……

声のあとに、岩の上に、ぽたり、と水滴が落ちた。

 

担いだ背負子が、ふっ、と軽くなった。

続いて、守袋が水面を叩く大きな音が耳に届いた。

 

それを合図にイダテンは走り出した。

滝の音が遠ざかる。

 

様子を見ながら、姫の傷に負担がかからないよう、少しずつ速度をあげていく。

肩も足も、まったく痛まなかった。

疲れも消え去っている。

黄金はおろか、姫さえ乗っていないのではないかと思うほど軽く感じた。

 

イダテンは確信した。

これなら、どんな走りでもできる。

 

ひゅんひゅんと軽快に風を切り裂いて走る。

姫の袿の袖が風を受け、音をたてて翻る。

 

だが、しばらくすると不安にかられた。

疲れた。話ができそうにない。

振り返らずに走ってくれ、という姫の言葉にしたがっていたが、我慢ができず声をかけた。

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