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婿殿は図々しくも尾張と美濃、両国の勝利とぬかしおったか。相変わらず小生意気な奴よ」
道三は辛辣に言うものの、その顔は言葉とは裏腹に、和やかな微笑に溢れている。
「それで、肝心の今川との戦の様子は如何であった?」
「はい。出陣の折には船が出せぬ程の激しい大風が吹いておりましたが、何と信長殿は源義経の話を持ち出されて──」
と盛就は、織田勢の渡海の様子や、鉄砲の連射等で敵を追い込んでいった砦攻めの様子を、一部始終、詳しく報告したのである。
全ての報告を聞いた道三は、ふーっと大きな吐息を漏らすと
「織田信長……凄まじき男よのう。もしもあやつが味方でも同盟相手でもなかったら、間違いのう隣国にはいてほしくない人物じゃな」
と重々しい口調で語った。公司秘書服務| 為企業提供可靠專業意見| easyCorp公司易
その話を、麓の館の居室で侍女の笠松から伺った小見の方は
「ほほほほ、まぁ可笑しい」
と、やや品に欠ける笑い声を上げた。
笠松は思わずきょとんとしてしまう。
「お方様…、何がそんなに可笑しいのでございます?」
「いいえ。ただ、殿と帰蝶はやはり親子よのう──同じことを言いおる」
「はて?」と笠松が首を捻ると、背後の違い棚に置かれた漆塗りの文箱を手に取って、その中に収められた一通を徐(おもむろ)に取り出した。
几帳面で、細やかな書体で綴(つづ)られたその文を広げ見ながら、小見の方はなだらかに湾曲した細眉を軽く上に持ち上げる。
『 出し抜けにこのような文をお送り申すこと、大変に心苦しく… 』
と、詫び入れから始まる文は、この月のはじめ、濃姫が信長の命を受けて書き送った例の“保険”であった。
道三への執り成し依頼から、万一の折の対処法までが白紙いっぱいに綴られている。
勝利を得た今となっては見るのも恥ずかしい一通であるが、その末尾に
『 このような文をしたためさせる程に、今の信長様は尋常ならざる昂りを覚えておられますが、
我が夫の本領が発揮されるのは、戦場(いくさば)をおいて他には無きこと、重々承知申し上げております。
此度の働きを知り、我が夫が隣国におわす事実を、父上様も恐ろしゅう感じる事になりましょう 』
そう記されているのを改めて拝し
「我が姫は大した自信家ですこと」
と、小見の方は再び笑顔を作った。
「そして怖いもの知らずじゃ。御夫君の為とは申せ、かような文を書き送ることが如何に危ういことかは、帰蝶もよう存じておろうに」
「帰蝶…、ではそのお文は姫様からの?」
笠松が訊くと小見は軽く首肯して
「なれど我が姫は、大切なことを忘れておるようじゃな」
と意味深に呟いた。
「大切なこと、と仰いますと?」
「私とて帰蝶と同様、この乱戦の世に生まれた姫御前じゃということよ」
何せ小見の方の判断次第によっては、母娘の情など捨て去って、この文を道三に手渡し、
信頼を欠くような仕儀に及んだ事実をネタに、信長の留守をこれ幸いとばかりに美濃軍を尾張に侵攻させていたかも知れない。
賢き姫のこと、母だから大丈夫などと安易には思わなかったはずである。
それでも尚、かような行動に及んだということは
「…殿が申しておったように、帰蝶は尾張の大うつけ殿に骨抜きにされておるようじゃな」
「まぁ、あの姫様が」